node note(バンドワゴンに乗らない)

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世界を変えられなくても、偉業を成し遂げなくても、人の営みは無意味じゃないと信じる。

KINEMASは、ボーカル宮下浩を中心に結成された音楽集団だ。
日本各地に暮らすメンバーが、日常を超えて集い、国内外を行き来しながら音楽活動を続けている。
それぞれが異なる地域に根を張り、複数の職業的・音楽的アイデンティティを持ちながら、それでもたった一つのステージを目指して彼らは楽器を抱え旅に出ては、演奏し、笑い、酒を酌み交わし、そしてまた、それぞれの暮らしへと戻ってゆく。

私は2019年から、彼らのライブ・滞在・移動・打ち上げなど、衣食住にまたがる日々を6年にわたり撮影してきた。
一見すると音楽活動の記録のようだが、出発点は「生活と表現がどう折り重なり、共存しているのか」という根源的な関心だった。

そして次第に気づく。
これは世界を変える偉業でも、有名人の物語でもない。
むしろ、何者でもない小さな存在の営みこそ、私が惹かれているものだった。
彼らが選び続けているのは、何かを犠牲にした夢ではなく、現実に折れた諦めでもなく、「音楽も、生活も」という、欲張りで、誠実な選択だ。
現実の中で音楽を続け、家族と暮らし、仕事をこなし、酒を飲み、ステージに立つ。
時には離脱し、けれどまた周回軌道上で出会うことができる。
そんな彼らの在り方に、私は強く惹かれた。

カメラを向けるとき、私は「ステージの上」だけではなく、その前後に目を向けていると感じる。
宿で支度をするすがた、打ち上げで酔っぱらうようす、旅の移動、他愛のない冗談、ふと訪れる沈黙。
日常と非日常が入り混じる瞬間のなかに、音楽を続けることの意味や、彼らの人生の輪郭が浮かび上がってくる。

何者でもない「小さな個人」が、自らを鼓舞しながら、自分の手で自分の人生や生活を選び、形づくってゆくこと。
その営みの持つ豊かさと、難しさ。

この作品は、それでもそうして自分で自分に火を灯しつづけることができる、「人間」というものに対するささやかな人間讃歌なのかもしれない。
それは、しずかに灯る火を見つめ続けるような行為。
その火は不確かで、ささやかで、でも、力づよく美しい。