rakusai object (1)

2020年4月19日

 

■statement

一見完全な風景にぽっかりと穴があいている
これは月か ドーナツの穴か
日常に棲む違和感 ここであってここでないところ 現実と非現実のはざま


写真はほんとうに現実しか写さない。

洛西の風景の中にオブジェクトを配置して、ふだん見ている景色にわずかな違和感を与える。そのような意図でこのプロジェクトを始めたのだが、いざオブジェクトを配置してみると、ふしぎとしっくりくるものがある。
それどころか、現実を写真として切り取った際にあらわれてしまう、妙に整然とした白々しさがやわらぐような気すらした。

脳には目で見たものをかってに補正してしまう仕組みがある。
緑内障などの原因により視野が欠けても、よほどひどくならない限り本人は視野欠損を自覚できないと言う。
つまり、欠損そのものが意識に上がることはほとんどない。
しかしわたしたちがその欠損を含めて「風景」を見ているのだとしたら? 私たちは既に何かを意識せずして見ている可能性はないか? ときどき写真にあらわれる違和感はこれなのかもしれないとふと思う。

このオブジェクトを、「黒い円がある」と見るか、「円形に欠けている」と見るか。
今ここにある黒い円を、人は何と知覚するのか。「穴」と見るか、「月」と見るか、あるいは「口」と見るか。
ちょっとした違和感から翻って、改めていつもの日常の中で無意識に見ているもの・見ていないものに意識を向けるきっかけになればと思います。